アニメ映画『この世界の片隅に』の感想|何でもない毎日が、こんなにも愛おしい
『この世界の片隅に』は、戦争を題材にしたアニメ映画だけれど、いわゆる戦争映画とは少し違う。
戦場での激しい戦いや兵士たちの勇ましい姿ではなく、描かれているのは、広島から呉に嫁いだ一人の女性、すずさんの暮らし。
ご飯を作り、洗濯をして、家族と話をして、ときには失敗して笑う。そんな、ごく普通の日常が続いていく。
ところが、その何でもない毎日が、戦争によって少しずつ壊されていく。
観終わって感じたのは、戦争の悲惨さはもちろんだけど、それ以上に、当たり前だと思っている日常がどれほど大切なのかということ。
いやぁ、静かな作品なのに、心にずっしり残る。
すずさんという女性が、とにかく愛おしい
主人公のすずさんは、どこかのんびりしていて、少しぼんやりしたところもある女性。
絵を描くことが好きで、何かにつけて自分なりの工夫をしながら暮らしている。
決して特別なヒロインではない。強い意志で周囲を引っ張っていくタイプでもないし、困難に立ち向かう勇敢な女性として描かれているわけでもない。
むしろ、目の前の生活を一生懸命こなしている、ごく普通の人という印象。
戦争という大きな出来事の中でも、すずさんは毎日のご飯を考え、家族のことを気にかけ、少しでも楽しく暮らそうとする。
食べるものが少なくなれば工夫する。物がなければ代わりになるものを探す。そんな姿を見ていると、どんな時代でも人は暮らしていくんだなと思う。
ちなみに、すずさんの声を担当しているのは、女優ののんさん。声の演技が本当に自然で、すずさんの少し頼りないところや、ふとしたときに見せる強さがよく伝わってくる。
アニメならではの柔らかい絵のタッチと、のんさんの声もよく合っている。
すずさんと周作の結婚生活に感じた、ささやかな幸せ
すずさんは、縁談をきっかけに呉へ嫁ぎ、北條周作と夫婦になる。
最初から恋愛感情があったわけではない。知らない土地で、知らない家族と暮らし始めるのだから、戸惑うことも多かったはず。
それでも、少しずつ周作との距離を縮め、家族としての時間を重ねていく。
この二人の関係が、なんともいい。
派手な愛情表現があるわけでもないし、いつも仲良くしているわけでもない。時にはすれ違いもある。
でも、同じ家で暮らし、一緒にご飯を食べ、何でもない話をする。
こういう時間こそが、夫婦の幸せなのかもしれない。
僕は旅行が好きだし、知らない場所へ行って、きれいな景色を見たり、おいしいものを食べたりするのも好き。
ただ、そういうときにふと思うことがある。
この景色を誰かと一緒に見たい。このおいしいものを一緒に食べたい、と。
一人で自由に過ごす時間も好きなのに、結局は誰かと共有したくなる。人間って、なかなか面倒くさい(笑)。
すずさんと周作の暮らしを見ていると、特別な旅行や豪華な食事だけが幸せではないんだと思わされる。
いつもの場所で、いつもの人と過ごす。そんな時間が、実は一番ぜいたくなのかもしれない。
戦争が奪っていくのは、命だけではない
この映画を観ていて、だんだん苦しくなってくるのは、戦争が日常の中に入り込んでくるところ。
最初は遠くで起きている出来事だったものが、空襲警報や物資不足によって、少しずつ自分たちの生活に影響してくる。
食べ物は手に入りにくくなり、自由に外を歩くことも難しくなる。
それでも人々は、何とか暮らしを続けようとする。
しかし、空襲によってその日常は容赦なく壊されていく。
特に、晴美の死と、すずさんが右手を失う場面は本当にきつい。
それまで何気なく使っていた手。絵を描くことも、料理をすることも、日々の暮らしの中で当たり前に使っていた手を突然失ってしまう。
しかも、すずさん自身が何か悪いことをしたわけではない。普通に暮らしていただけなのに、戦争はそんな人の人生まで変えてしまう。
戦争の恐ろしさは、命を奪うことだけではないと思う。
その人が好きだったこと、楽しみにしていたこと、家族と過ごすはずだった未来まで奪ってしまう。
この映画は、そのことを大げさな説明ではなく、すずさんの日常を通して見せてくれる。
だからこそ、余計に胸に刺さる。
終戦を迎えても、すぐに幸せにはなれない
やがて日本は敗戦を迎える。
普通なら、戦争が終われば安心できると思うかもしれない。
でも、すずさんにとっては、そう簡単な話ではない。
大切な人を失い、自分の体にも傷を負い、これまでの暮らしも変わってしまった。
そして、戦争が終わったことを知ったとき、すずさんは怒りをあらわにする。
それまで我慢しながら生きてきたものが、一気にあふれ出したようにも見えた。
ここは印象に残る場面だった。
戦争が終わったからといって、失ったものが戻ってくるわけではない。明日から急に元の生活に戻れるわけでもない。
それなのに、周囲の人たちは生きていかなければならない。
この作品を観ていると、戦争を終わらせることと、人がそこから立ち直ることは別なのだと感じる。
ラストに登場する女の子が、未来への希望に見えた
終盤、すずさんと周作は、戦争で家族を失った女の子と出会う。
その子の姿を見ていると、戦争がどれほど多くのものを奪ったのか、、、
戦争というものを改めて考えさせられる。
親を失い、帰る場所もなくなった子ども。そんな子が、これからどうやって生きていくのか。考えるだけでも胸が苦しくなる。
けれど、すずさんたちはその子を迎え入れる。
ここに、この映画の希望があるように感じた。
戦争によって壊されたものは、簡単には元に戻らない。それでも、人は誰かを支えたり、誰かと一緒に暮らしたりしながら、少しずつ前へ進んでいく。
大きな奇跡が起きるわけではない。
ただ、誰かの居場所になること。誰かと一緒にご飯を食べること。
そんな小さなことから、もう一度人生が始まっていくのだと思う。
アニメ映画『この世界の片隅に』を観て、改めて感じた家族の大切さ
『この世界の片隅に』は、戦争の悲惨さを描いた作品でありながら、僕には家族や日常の大切さを描いた映画として強く残った。
もちろん、戦争について考えさせられる場面はたくさんある。
でも、観終わってから頭に残っているのは、すずさんがご飯を作っていた姿や、周作と過ごしていた時間、家族と何気ない会話をしていた場面だった。
人は、何かを失って初めて、その大切さに気づくことがある。
普段は当たり前すぎて、ありがたみを感じないことも多い。
朝起きて、家族と顔を合わせる。ご飯を食べる。くだらない話をする。そんな毎日がずっと続くと思っている。
でも、本当はそれだけで十分幸せなのかもしれない。
僕自身、自由に出かけたいと思うこともあるし、一人で過ごしたいときもある。ところが、いざきれいな景色を見たり、おいしいものを食べたりすると、やっぱり誰かと一緒に楽しみたくなる。
結局、帰る場所があって、待っていてくれる人がいる。それがどれほどありがたいことなのか、この映画を観て改めて考えた。
派手な演出で泣かせにくる映画ではない。むしろ、静かに日常を描いている作品。
だからこそ、観終わったあとにじわじわと心に残る。
戦争を知らない世代にも、ぜひ観てほしいアニメ映画だと思う。
何でもない今日という一日を、もう少し大切にしてみよう。

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