映画『パラサイト 半地下の家族』の感想|笑えるのに、だんだん怖くなる不思議な映画
※この記事には、映画の結末を含むネタバレがあります。
この映画、本当にうまいこと作り上げたなぁ
最初は、ちょっとした詐欺を働きながら金持ちの家に入り込んでいく家族の話なのかと思っていた。
ところが、観ているうちにどんどん雰囲気が変わっていく。
笑っていたはずなのに、気がつけばハラハラしている。そして最後には、なんとも言えない嫌な気持ちが残る。
韓国映画『パラサイト 半地下の家族』は、2019年公開のポン・ジュノ監督作品。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、アカデミー賞でも作品賞を含む4部門を受賞した作品だ。
でも、賞をたくさん取ったからすごいというより、映画そのものの作りが本当にすごい。
何気ない会話や小道具、家の構造にまで意味がある。最初に観たときには気づかなかったことが、あとから考えると怖くなってくる。
そして何より、この映画には「完全な悪人」がいないように見えるところが厄介なんだよね。
『パラサイト 半地下の家族』のあらすじ|貧しい一家が金持ちの家に入り込む
物語の中心になるのは、半地下の家で暮らすキム一家。
父親のギテク、母親のチュンスク、長男のギウ、長女のギジョン。家族全員が仕事に困っていて、生活は決して楽ではない。
ある日、ギウは友人から裕福なパク一家の娘の家庭教師を頼まれる。
パク家は高台にある立派な豪邸で暮らしている。家も広いし、生活にも余裕がある。キム家とはまるで別世界だ。
ギウは大学生ではないのに、うまく身分を偽って家庭教師の仕事を手に入れる。
さらに妹のギジョンも美術教師としてパク家に入り込む。そこから父親、母親と、キム一家は次々にパク家で働くようになっていく。
もちろん、家族であることは隠している。
それぞれが他人のふりをして、少しずつパク家の生活に入り込んでいくわけだ。
ここまでは、どこか痛快な詐欺劇にも見える。
ところが、ある雨の夜、元家政婦が突然パク家を訪ねてきたことで、物語は大きく変わってしまう。
そして、この家には誰も知らない秘密が隠されていた。
キャスト紹介|ソン・ガンホをはじめ、脇役まで本当にうまい
この映画はキャストも素晴らしい。
- ソン・ガンホ(キム・ギテク役):キム一家の父親。仕事がなく、どこか頼りないが、家族を思う気持ちも持っている。
- イ・ソンギュン(パク・ドンイク役):裕福なパク一家の父親。IT企業の社長で、物腰は穏やかだが、他人との間に明確な線を引いている。
- チョ・ヨジョン(パク・ヨンギョ役):パク家の母親。少し世間知らずで、キム一家の嘘にも気づかない。
- チェ・ウシク(キム・ギウ役):キム一家の長男。家庭教師としてパク家に入り込む。
- パク・ソダム(キム・ギジョン役):キム一家の長女。頭の回転が速く、相手を信じ込ませるのがうまい。
- チャン・ヘジン(キム・チュンスク役):キム一家の母親。元ハンマー投げの選手で、なかなか肝が据わっている。
- イ・ジョンウン(ムングァン役):パク家の元家政婦。物語の後半で重要な秘密を明かす人物。
- パク・ミョンフン(オ・グンセ役):地下室に隠れて暮らしているムングァンの夫。
個人的には、やっぱりソン・ガンホの存在感が大きい。
大げさな演技をしているわけではないのに、表情やちょっとした動きだけで、その人物が何を考えているのか伝わってくる。
特に後半、ギテクの中で何かが壊れていく様子は見ていてつらい。
そして、イ・ジョンウンも忘れられない。最初は普通の家政婦に見えるのに、彼女が戻ってきた瞬間から映画の空気がガラッと変わる。
このキャストだからこそかな。
意味がわかると怖い伏線①|半地下と地下室、本当に怖いのはその下にいる人
この映画で最も印象に残る仕掛けは、やはり家の構造だと思う。
キム一家が暮らしているのは半地下。窓から外の景色は少し見えるけれど、道路を歩く人の目線より低い位置にある。
一方、パク一家は高台にある大きな家で暮らしている。
この時点で、二つの家族の生活の違いが目に見えるようになっている。
ところが、物語の途中でさらに驚く事実がわかってくる。
パク家の豪邸には地下室があり、そこに元家政婦ムングァンの夫グンセが長い間隠れて暮らしていたのだ。
つまり、キム一家は自分たちが貧しいと思っていたけれど、その下にはさらに厳しい生活をしている人がいた。
マジ本当に怖い。
キム家とパク家だけの話だと思っていたのに、実はもう一つ下の世界があった。
しかも、キム一家と地下室の夫婦は、同じように苦しい立場なのに協力するどころか争い始めてしまう。
本来なら、同じような境遇の人間同士で助け合ってもよさそうなのに、、、
自分たちが生き残るために、相手を蹴落とそうとする。
意味がわかると怖い伏線②|「におい」が最後の悲劇につながっていく
この映画で何度も出てくるのが「におい」という言葉。
パク家の人たちは、キム一家のにおいについて話す。
地下鉄に乗っている人のようなにおい。地下のようなにおい。
もちろん、本人たちに面と向かって言っているわけではない。
でも、キム一家はその会話を知ってしまう。
これは辛い!
どれだけ服装を整えて、言葉遣いを変えて、金持ちの家に馴染もうとしても、簡単には消せないものがある。
それが生活のにおいだった。
パク社長は、キム一家を露骨に差別しているわけではない。むしろ仕事を任せているし、普通に接しているようにも見える。
ただし、心の中ではきっちり線を引いている。
「ここから先には入ってくるな」という線だ。
そして誕生日パーティーの日、地下室から出てきたグンセのにおいに、パク社長は思わず顔をしかめる。
その瞬間を見たギテクの表情が忘れられない。
それまで何とか我慢してきたものが、一気にあふれ出したように見えた。
においそのものが悪いわけではない。そこに住む人間が悪いわけでもない。
でも、においを理由に人を見下すような態度が、最後の引き金になってしまう。
この映画で「におい」が何度も出てくるのは、単なる演出ではないんだよね。
意味がわかると怖い伏線③|水石、豪雨、モールス信号にも意味がある
ほかにも、見逃せない伏線がいくつもある。
まず、ギウが友人からもらった水石。
これは「富や幸運をもたらす」とされる石で、ギウは大切そうに持ち歩いている。
貧しい生活から抜け出したい。いつか成功したい。そんな願いが、この石に重なっているように見える。
ところが、終盤ではこの石が思わぬ形で使われる。
幸運をもたらすはずの石が、逆に悲劇を引き起こす道具になってしまう。
そして、もう一つ重要なのが豪雨だ。
パク一家にとって雨は、キャンプから帰るきっかけになる程度の出来事だった。
ところがキム一家にとっては違う。
大雨で半地下の家は水浸しになり、家族は避難所で過ごすことになる。
同じ雨なのに、金持ちと貧しい人では受ける影響がまるで違う。
この描き方は絶妙。
さらに、地下室で使われるモールス信号も重要だ。
グンセは地下室から外に向けて信号を送っている。パク家の息子ダソンは、その光に気づいているものの、意味を理解できていない。
そして後半、地下に隠れたギテクもモールス信号を使う。
地上にいる人間には届かない声が、光の点滅によってようやく伝わる。
こうした小さな仕掛けが、最後に効いてくる。
一度観ただけでは気づかないことも多いので、もう一度観ると違った見え方になると思う。
ネタバレ考察|なぜギテクはパク社長を刺したのか?
ここからは結末の話。
誕生日パーティーの日、地下室に隠れていたグンセが外に出てきて、会場は大混乱になる。
ギジョンは刺され、ギウも大きなけがを負う。
そして、ギテクはパク社長を刺してしまう。
なぜ、そこまでのことをしたのか。
もちろん、ギテク自身にも責任はある。パク一家をだまして仕事を手に入れたのはキム一家だし、パーティーの日に起きた事件も、誰か一人だけが悪いとは言い切れない。
ただ、ギテクの中には長い間積み重なってきたものがあったんだと思う。
貧しさを笑われるような感覚。自分たちの生活を見下されているような感覚。そして、どれだけ頑張っても越えられない壁。
そのうえ、目の前で娘が倒れている。
そんな状況で、パク社長がグンセのにおいを嫌がる仕草を見せる。
ギテクの中で何かが切れてしまったのかもしれない。
でも、だからといって人を刺していいわけではない。
この場面が難しいのは、ギテクの気持ちが少しわかるような気もするのに、やってしまったことは取り返しがつかないからだ。
誰か一人を悪者にすれば簡単なのに、この映画はそうさせてくれない。
ラストの意味|ギウが父親を助ける計画は本当に実現するのか?
事件のあと、ギテクはパク家の地下室に身を隠す。
そして、息子のギウは父親からのモールス信号を受け取る。
ギウは父親を助けるために、いつかお金を稼いであの豪邸を買い、父親を地下室から出すという計画を思い描く。
ここだけ見ると、希望のある終わり方にも見える。
いつか成功して、家族みんなで暮らす。
父親を迎えに行く。
ところが、最後に映し出されるのは、ギウが半地下の家に戻った姿だ。
つまり、あの計画はまだ実現していない。
映画はギウの夢を見せながら、その夢がどれほど遠いものなのかも同時に見せている。
本当にいつか父親を助けられるのだろうか。
それとも、夢を見ているだけで終わってしまうのだろうか。
ここが何とも苦しい。
希望を持つことは大切だと思う。でも、希望だけではどうにもならない現実もある。
ギウの計画を素直に応援したい気持ちと、そんな簡単にいくはずがないという気持ちが、同時に残るラストだった。
『パラサイト 半地下の家族』を観終わって|本当の寄生者は誰なのか?
タイトルの「パラサイト」は寄生する人という意味。
では、この映画で寄生していたのは誰なのだろう。
パク家に嘘をついて入り込んだキム一家なのか。
豪邸の地下で暮らしていたグンセなのか。
それとも、働く人たちに支えられて暮らすパク一家なのか。
考え始めると、簡単には答えが出ない。
キム一家がやっていることは、決して褒められたものではない。でも、彼らがそこまでして仕事を手に入れようとした背景には、貧しさがある。
パク一家も、ただの悪人ではない。彼らは自分たちの生活を守っているだけなのかもしれない。
それでも、両者の間には埋められない溝がある。
この映画が怖いのは、貧しい人と金持ちのどちらかを単純に悪者にしていないところだと思う。
人は自分より下にいる人を見て安心したり、自分より上にいる人を羨ましく思ったりする。
そして、自分の生活を守るためなら、同じように苦しい立場の人間と争ってしまうこともある。
いやぁ、考えれば考えるほど嫌な気持ちになる(笑)
でも、それだけ人間の嫌な部分をうまく描いているということなんだろう。
笑える場面もあるし、先が気になってどんどん観てしまう。なのに、観終わったあとには簡単に忘れられないものが残る。
伏線を知ってからもう一度観ると、最初は何でもなかった場面が、まったく違って見えてくるはず。
この映画も何度での観れちゃうなぁ

コメント